妊娠を望むカップルにとって、日々の食生活は非常に重要な要素です。特に、近年注目されている「超加工食品(UPF)」の摂取が、妊娠のしやすさや妊娠初期の受精卵の発育にどのような影響を与えるのか、関心が高まっています。今回ご紹介する研究は、男女それぞれの超加工食品の摂取が、妊娠の可能性と初期の胎児の発育に与える影響を詳細に調査したものです。この最新の研究結果から、妊娠を計画する上での食生活のヒントを探っていきましょう。
🍎 超加工食品(UPF)とは?
超加工食品(Ultra-Processed Food, UPF)とは、食品の加工度合いを分類する「NOVA分類」において、最も加工度が高いグループに属する食品を指します。これらは、工業的なプロセスを経て作られ、砂糖、塩、油、添加物(着色料、香料、乳化剤など)が多量に含まれていることが特徴です。
身近な例としては、以下のようなものが挙げられます。
- 清涼飲料水、加糖飲料
- 菓子パン、インスタントラーメン
- スナック菓子、チョコレート、キャンディー
- 加工肉製品(ソーセージ、ハム、ナゲットなど)
- 冷凍ピザ、レトルト食品、インスタントスープ
- 一部の朝食用シリアル
これらの食品は手軽で美味しく、現代の食生活に深く浸透していますが、栄養価が低い一方で、高カロリーであることが多く、過剰な摂取は健康への悪影響が懸念されています。
🔬 研究の背景と目的
研究の背景
妊娠前後の期間、特に「周産期」と呼ばれる時期は、妊娠の成功率、その後の妊娠経過、そして生まれてくる子どもの長期的な健康に大きく影響することが知られています。これまでにも、母親の食生活が妊娠のしやすさや妊娠初期の胚(受精卵)の発育に影響を与える可能性が指摘されてきました。
しかし、超加工食品(UPF)の摂取が、妊娠を望む男女双方にどのような影響を与えるのか、特に両親のUPF摂取が複合的に妊娠のしやすさや初期の受精卵の発育にどう関わるかについては、これまで十分に解明されていませんでした。
研究の目的
本研究は、妊娠を計画している女性とそのパートナーである男性の周産期における超加工食品(UPF)の摂取が、以下の項目と関連するかどうかを明らかにすることを目的としています。
- 妊娠のしやすさ(受胎能)
- 胚(受精卵)の成長
- 卵黄嚢(らんおうのう)の発育
📊 研究の方法
研究デザインと参加者
この研究は、オランダで実施されている大規模な人口ベースの前向きコホート研究「Generation R Study」の一部として行われました。この研究では、妊娠前から子どもが成長するまでを追跡調査しています。
今回の分析には、合計831名の女性と、そのパートナーである651名の男性が参加しました。
食事摂取量の評価
参加者の周産期における食事摂取量は、妊娠中央値12週3日頃(範囲:妊娠10週6日~18週3日)に実施された食物摂取頻度調査票(Food Frequency Questionnaire, FFQ)を用いて評価されました。摂取された食品は、加工度合いに応じて「NOVA分類」という国際的な分類法に基づいて分類され、超加工食品(UPF)の摂取量は、総食物摂取量(1日あたりのグラム数)に占める割合として算出されました。
妊娠関連指標の評価
研究では、以下の妊娠関連指標が評価されました。
- 妊娠しやすさ(Fecundability):1ヶ月以内に妊娠する確率として定義されました。
- 不妊(Subfertility):妊娠までの期間が12ヶ月以上かかった場合、または生殖補助医療(体外受精など)を利用した場合と定義されました。これらの情報は、質問票を通じて収集されました。
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初期の受精卵の発育:妊娠7週、9週、11週の時点で、経腟超音波検査を用いて以下の項目が測定されました。
- 頭殿長(CRL)※1:胎児の頭からお尻までの長さ。妊娠初期の胎児の成長を示す重要な指標です。
- 卵黄嚢容積※2:妊娠初期に胎児に栄養を供給する袋状の構造である卵黄嚢の大きさ。初期の成長に不可欠です。
※1 頭殿長(CRL):胎児の頭からお尻までの長さ。妊娠初期の胎児の成長を示す重要な指標です。
※2 卵黄嚢:妊娠初期に胎児に栄養を供給する袋状の構造。初期の成長に不可欠です。
💡 研究の主なポイント(結果)
本研究で得られた主要な結果は以下の通りです。
平均的な超加工食品(UPF)摂取量
- 女性のUPF摂取量は、総食物摂取量の中央値で22.0%でした。
- 男性のUPF摂取量は、総食物摂取量の中央値で25.1%でした。
主要な結果のまとめ
社会人口統計学的要因、ライフスタイル要因、およびパートナーのUPF摂取量で調整した後も、以下のような関連性が認められました。
| 項目 | 女性のUPF摂取 | 男性のUPF摂取 |
|---|---|---|
| 妊娠しやすさ (1ヶ月以内の妊娠確率) |
関連なし | 低下 (UPF摂取量が多いほど、1ヶ月以内の妊娠確率が減少) |
| 不妊リスク (妊娠までの期間が12ヶ月以上、または生殖補助医療の利用) |
関連なし | 増加 (UPF摂取量が多いほど、不妊リスクが増加) |
| 初期の胚の成長 (頭殿長※1) |
妊娠7週で小さくなる (UPF摂取量が多いほど、妊娠7週の頭殿長が小さい。9週、11週では関連が弱まる) |
関連なし |
| 卵黄嚢容積 (卵黄嚢※2の大きさ) |
妊娠7週で小さくなる (UPF摂取量が多いほど、妊娠7週の卵黄嚢容積が小さい。9週、11週では関連が弱まる) |
関連なし |
※1 頭殿長(CRL):胎児の頭からお尻までの長さ。妊娠初期の胎児の成長を示す重要な指標です。
※2 卵黄嚢:妊娠初期に胎児に栄養を供給する袋状の構造。初期の成長に不可欠です。
まとめると、女性のUPF摂取量が多いほど、妊娠7週の胎児の頭殿長と卵黄嚢容積が小さい傾向が見られました。一方、男性のUPF摂取量が多いほど、妊娠しやすさが低下し、不妊のリスクが増加することが示されました。
🧐 研究結果からの考察
この研究結果は、妊娠を望むカップルにとって非常に重要な示唆を与えています。特に注目すべきは、男女間で超加工食品(UPF)摂取が異なる影響を与えるという点です。
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女性のUPF摂取と初期胚の発育:
女性のUPF摂取量が多いと、妊娠7週という非常に早い段階で、胎児の成長(頭殿長)と卵黄嚢の大きさ(容積)が小さくなることが示されました。卵黄嚢は、妊娠初期に胎児に栄養を供給する重要な役割を担っており、その発育が不十分であることは、初期の胎児の健康に影響を与える可能性があります。UPFは、必須栄養素の不足、炎症の促進、酸化ストレスの増加などを引き起こす可能性があり、これらが初期胚の発育に悪影響を及ぼしているのかもしれません。妊娠9週、11週ではこの関連が弱まったことから、妊娠初期の非常に感受性の高い時期にUPFの影響が強く現れる可能性が考えられます。 -
男性のUPF摂取と妊娠しやすさ:
男性のUPF摂取量が多いと、1ヶ月以内に妊娠する確率が低下し、不妊のリスクが増加することが明らかになりました。これは、UPF摂取が精子の質(数、運動率、形態など)に悪影響を与える可能性を示唆しています。過去の研究でも、不健康な食生活が男性の生殖能力に影響を与えることが報告されており、本研究はその知見をUPFに特化して裏付けるものです。
この研究は、妊娠を計画する「周産期」における食生活が、男女双方にとって極めて重要であることを改めて強調しています。単にカロリーを摂取するだけでなく、摂取する食品の「質」が、妊娠の可能性や初期の胎児の健全な発育に深く関わっていると言えるでしょう。
💡 実生活へのアドバイス
この研究結果を踏まえ、妊娠を考えているカップルが実生活で取り入れられる具体的なアドバイスをいくつかご紹介します。
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男女ともに超加工食品(UPF)の摂取量を見直しましょう。
特に、男性は妊娠しやすさ、女性は妊娠初期の胎児の発育に影響が出ることが示唆されています。パートナーと協力して、食生活全体を見直す良い機会と捉えましょう。 -
加工度の低い食品を積極的に取り入れましょう。
野菜、果物、全粒穀物(玄米、全粒パンなど)、豆類、ナッツ、未加工の肉や魚、卵、乳製品など、自然に近い形の食品を中心に食事を組み立てることが理想的です。 -
食品表示をよく確認する習慣をつけましょう。
購入する食品の原材料名や栄養成分表示を確認し、砂糖、塩分、不健康な脂肪、そして多くの添加物が含まれていないかチェックする意識を持つことが大切です。 -
手作りの食事を増やすことを検討しましょう。
外食や市販の加工食品に頼る機会を減らし、自宅で調理する機会を増やすことで、食事の内容をコントロールしやすくなります。 -
バランスの取れた食生活を心がけましょう。
特定の食品だけを避けるのではなく、様々な種類の食品をバランス良く摂取し、必要な栄養素を十分に摂ることが、妊娠しやすい体づくりと健康な胎児の発育につながります。 -
完璧を目指すのではなく、できることから始めましょう。
いきなり全てのUPFを排除するのは難しいかもしれません。まずは、清涼飲料水を水やお茶に替える、スナック菓子をナッツや果物に替えるなど、小さな一歩から始めてみましょう。 -
必要に応じて専門家に相談しましょう。
食生活の改善について不安がある場合や、より具体的なアドバイスが欲しい場合は、医師や管理栄養士などの専門家に相談することをおすすめします。
⚠️ 研究の限界と今後の課題
本研究は重要な知見をもたらしましたが、いくつかの限界も存在します。
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対象集団の限定性:
この研究は比較的健康な集団を対象としており、その結果がより広範な、あるいはリスクの高い集団にそのまま当てはまるかどうかは、さらなる研究が必要です。 -
食事評価の自己申告:
食事摂取量の評価は食物摂取頻度調査票(FFQ)による自己申告に基づいているため、実際の摂取量と多少の誤差が生じる可能性があります。 -
長期的な影響:
本研究は妊娠初期の発育に焦点を当てていますが、周産期のUPF摂取が子どもの長期的な健康(例えば、成長後の肥満や生活習慣病リスクなど)にどのように影響するかについては、今後の継続的な研究が求められます。
まとめ
今回の研究は、妊娠を望むカップルにとって、超加工食品(UPF)の摂取が妊娠の可能性と初期の受精卵の発育に影響を与える可能性を示しました。特に、男性のUPF摂取は妊娠しやすさの低下と不妊リスクの増加に、女性のUPF摂取は妊娠7週の胎児の成長と卵黄嚢の発育の遅れに関連することが明らかになりました。
この結果は、妊娠を計画する段階から、男女ともに食生活を見直し、加工度の低い自然な食品を中心としたバランスの取れた食事を心がけることの重要性を強く示唆しています。健康的な食生活は、妊娠の可能性を高め、健やかな妊娠初期の発育をサポートするための大切な一歩となるでしょう。パートナーと協力し、より良い食習慣を築くことで、望む妊娠と健康な赤ちゃんを迎えるための準備を進めていきましょう。
関連リンク集
- 厚生労働省
- 公益社団法人 日本産科婦人科学会
- 一般社団法人 日本生殖医学会
- 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所
- 世界保健機関(WHO)日本
- FAO(国際連合食糧農業機関)- 日本の食生活指針
書誌情報
| DOI | pii: deag023. doi: 10.1093/humrep/deag023 |
|---|---|
| PMID | 41871947 |
| PubMed URL | https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41871947/ |
| 発行年 | 2026 |
| 著者名 | Lin Celine H X, Gaillard Romy, Mulders Annemarie G M G J, Jaddoe Vincent W V, Schipper Mireille C |
| 著者所属 | The Generation R Study Group, Erasmus MC, University Medical Center, Rotterdam, the Netherlands.; Department of Obstetrics and Gynecology, Erasmus MC, University Medical Center, Rotterdam, the Netherlands. |
| 雑誌名 | Hum Reprod |