妊娠中と幼児期の母親のスマホ利用が未就学児の行動問題に与える影響
現代社会において、スマートフォンは私たちの生活に欠かせないツールとなりました。しかし、子育て中の保護者にとって、その利用が子どもにどのような影響を与えるのかは、常に大きな関心事です。特に、妊娠中や子どもの幼少期における母親のスマホ利用が、子どもの行動発達に与える影響については、これまで研究によって見解が分かれていました。本記事では、この重要なテーマに焦点を当てた最新の研究結果を、一般の読者の皆様にも分かりやすく解説します。
📚 研究の背景と目的
これまでの研究では、母親の携帯電話利用が子どもの行動発達に与える影響について、一貫した結論が得られていませんでした。特に、妊娠中の利用と、子どもが幼い時期(幼児期)の利用のどちらがより重要であるかという点については、まだ不明確な部分が多く残されていました。
この研究は、妊娠中および幼児期における母親の携帯電話通話時間が、未就学児の行動問題とどのように関連しているかを明らかにすることを目的としています。
🔬 研究の方法
この研究では、「Mothers and Children’s Environmental Health (MOCEH)」という、母親と子どもの環境健康に関する前向き出生コホート研究のデータが分析されました。これは、妊娠中から子どもが成長するまで、長期にわたって追跡調査を行う大規模な研究です。
👩👧👦 参加者とデータ収集
対象者: MOCEHコホート研究に参加した母親と子ども。
分析対象: 全期間の曝露情報があるサブコホート(780組)、妊娠中の曝露情報があるサブコホート(763組)、幼児期の曝露情報があるサブコホート(418組)のデータが用いられました。
📱 母親のスマホ利用の測定
母親のスマホ利用状況は、以下の2つの期間に分けてアンケートで測定されました。
妊娠中: 妊娠期間中
幼児期: 子どもが3~5歳の間
アンケートでは、1日の通話頻度と1回あたりの平均通話時間が尋ねられ、それらから1日の平均通話時間(分/日)が算出されました。この通話時間が、スマホ利用の代理指標として用いられています。
👶 子どもの行動問題の評価
子どもの行動問題は、子どもが4歳、5歳、6歳の時に、K-CBCL(Korean Child Behavior Checklist:韓国版児童行動チェックリスト)という標準化された質問票を用いて評価されました。K-CBCLは、子どもの情緒や行動の問題を多角的に評価するためのツールです。
総問題スコア: 全体的な行動問題の程度。
内在化問題スコア: 不安、抑うつ、引きこもりなどの内面的な問題。
外在化問題スコア: 攻撃性、多動性、反抗などの外面的な問題。
📊 統計解析
妊娠中と幼児期の母親のスマホ利用が、子どもの行動問題スコアとどのように関連しているかを調べるために、線形混合効果モデルという統計手法が用いられました。このモデルは、同じ子どもを複数回測定したデータ(この研究では4歳、5歳、6歳時の行動問題スコア)を分析するのに適しています。
💡 主な研究結果
この研究から、母親のスマホ利用と子どもの行動問題に関する重要な知見が得られました。
概要
幼児期の母親のスマホ利用は、子どもの全体的な行動問題および外在化問題(攻撃性や多動性など)のスコアが高いことと有意に関連していました。
一方、妊娠中の母親のスマホ利用と子どもの行動問題との間には、有意な関連は見られませんでした。
詳細な結果(線形混合効果モデルによる関連性)
以下の表は、母親のスマホ利用と子どもの行動問題スコアの関連性を示しています。β値は関連の強さを示し、95%信頼区間(CI)は推定値の信頼性を示します。CIが0を含まない場合、統計的に有意な関連があると判断されます。
| 曝露期間 | 子どもの行動問題の種類 | β値(効果量) | 95%信頼区間(CI) | 統計的有意性 |
|---|---|---|---|---|
| 妊娠中のスマホ利用 | 総問題スコア | 関連なし | (0を含む) | なし |
| 内在化問題スコア | 関連なし | (0を含む) | なし | |
| 外在化問題スコア | 関連なし | (0を含む) | なし | |
| 幼児期のスマホ利用 | 総問題スコア | 1.37 | 0.46 – 2.28 | 有意 |
| 内在化問題スコア | 関連なし | (0を含む) | なし | |
| 外在化問題スコア | 1.44 | 0.54 – 2.33 | 有意 |
性差分析:
男児においては、幼児期の母親のスマホ利用が、総問題スコアおよび外在化問題スコアと関連していました。
女児においては、幼児期の母親のスマホ利用が、内在化問題スコアと関連していました。
🤔 研究の考察
この研究結果は、母親のスマホ利用が子どもの行動問題に影響を与える時期として、妊娠中よりも子どもが幼い時期(幼児期)がより重要である可能性を示唆しています。
なぜ幼児期の利用が影響するのか?
研究者たちは、この関連性の背景に「ケアギビング経路」が関与している可能性を指摘しています。これは、スマホの利用が親子の相互作用を中断することで、子どもの発達に影響を与えるという考え方です。
親子のインタラクションの中断: 母親がスマホに集中している間、子どもからの呼びかけや、遊びへの誘いに対する反応が遅れたり、質が低下したりすることが考えられます。このような状況が頻繁に起こると、子どもは親との安定した関係を築きにくくなり、情緒や行動の発達に影響が出る可能性があります。
非言語的コミュニケーションの減少: 親がスマホを見ていると、子どもの表情や仕草といった非言語的なサインを見落としやすくなります。これにより、子どもの感情を理解し、適切に対応する機会が減少するかもしれません。
子どもの模倣行動: 子どもは親の行動をよく見て真似をします。親が頻繁にスマホを使っていると、子どももスマホへの関心が高まり、過度な利用につながる可能性も考えられます。
性差について
男児で外在化問題、女児で内在化問題との関連が見られたことは興味深い点です。これは、性別によって行動問題の表れ方が異なることや、親子の相互作用が性別によって異なる影響を与える可能性を示唆しています。例えば、男児は不満やストレスを外に向けて表現しやすく、女児は内面に抱え込みやすいといった発達的な違いが背景にあるかもしれません。
💡 実生活へのアドバイス
この研究結果は、スマホを完全に避けるべきだというメッセージではありません。むしろ、子育て中のスマホ利用について、より意識的になることの重要性を示唆しています。
親子のインタラクションを大切に
「スマホフリー」の時間を作る: 食事中、寝る前、子どもとの遊びの時間など、特定の時間はスマホを触らないルールを設けましょう。
子どものサインに意識を向ける: 子どもが何かを伝えようとしている時、遊びに誘っている時など、子どもの呼びかけに積極的に応え、目を見て話す時間を持ちましょう。
一緒に活動を楽しむ: スマホ以外の活動(絵本の読み聞かせ、外遊び、お絵かきなど)を子どもと一緒に楽しみ、質の高い時間を共有しましょう。
スマホ利用の工夫
通知をオフにする: 不要な通知はオフにし、スマホに意識が向く回数を減らしましょう。
利用時間を決める: 目的のないだらだらとした利用を避け、必要な時だけ使うように心がけましょう。
「デジタルデトックス」を試す: 短時間でもスマホから離れる時間を作り、心身をリフレッシュさせましょう。
スマホを子育てのツールとして活用する: 育児情報収集や、子どもと楽しめる教育アプリなど、ポジティブな目的で利用する際は、時間を決めて活用しましょう。
⚠️ 研究の限界と今後の課題
この研究にはいくつかの限界点があります。
スマホ利用の測定: 母親のスマホ利用は、アンケートによる自己申告の通話時間のみで評価されており、実際の利用状況(SNS、動画視聴、ゲームなど)や利用の質(仕事かプライベートかなど)は考慮されていません。より詳細で客観的なデータが必要とされます。
因果関係: この研究は関連性を示唆するものであり、母親のスマホ利用が直接的に子どもの行動問題を引き起こすという明確な因果関係を証明するものではありません。他の要因(親のストレス、子どもの気質、家庭環境など)も影響している可能性があります。
対象地域の限定: 韓国のコホート研究のデータであるため、他の文化圏や社会経済的背景を持つ集団にそのまま当てはまるかは、今後の研究で検証が必要です。
今後の研究では、より詳細なスマホ利用状況のデータ収集や、長期的な追跡調査、そして親子の相互作用の質を客観的に評価する手法を取り入れることで、より深い理解が得られることが期待されます。
まとめ
本研究は、妊娠中の母親のスマホ利用よりも、子どもが幼い時期(幼児期)における母親のスマホ利用が、未就学児の行動問題と関連している可能性を示しました。特に、スマホ利用による親子の相互作用の中断が、子どもの発達に影響を与える「ケアギビング経路」が重要な要因であると考えられます。
この結果は、子育て中の保護者に対し、スマホとの付き合い方を見直し、子どもとの質の高いインタラクションの時間を意識的に確保することの重要性を教えてくれます。スマホは便利なツールですが、その利用が子どもとの大切な時間を奪わないよう、バランスの取れた使い方を心がけることが、子どもの健やかな成長を支える上で不可欠です。
関連リンク集
厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/
国立成育医療研究センター
https://www.ncchd.go.jp/
日本小児科学会
https://www.jpeds.or.jp/
国立精神・神経医療研究センター
https://www.ncnp.go.jp/
こども家庭庁
* https://www.cfa.go.jp/
書誌情報
| DOI | 10.1016/j.envres.2026.125314 |
|---|---|
| PMID | 42501935 |
| PubMed URL | https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42501935/ |
| 発行年 | 2026 |
| 著者名 | Joo Hyunjoo, Choi Jonghyuk, Lim Hyungryul, Choi Hyung-Do, Lee Ae-Kyoung, Moon Jungick, Ha Mina |
| 著者所属 | Department of Preventive Medicine, College of Medicine, Dankook University, Cheonan, Republic of Korea.; Department of Preventive Medicine, College of Medicine, Dankook University, Cheonan, Republic of Korea; Research Institute of Healthcare Bigdata, College of Medicine, Dankook University, Cheonan, Republic of Korea.; Department of Preventive Medicine and Public Health, Ajou University School of Medicine, Suwon, Republic of Korea.; Radio Research Division, Electronics and Telecommunications Research Institute, Daejeon, Republic of Korea.; Department of Preventive Medicine, College of Medicine, Dankook University, Cheonan, Republic of Korea; Research Institute of Healthcare Bigdata, College of Medicine, Dankook University, Cheonan, Republic of Korea. Electronic address: minaha@dankook.ac.kr. |
| 雑誌名 | Environ Res |