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2026.05.13 運動・スポーツ医学

医療現場での共感や思いやりの伝え方に関する研究レビュー

Communicating empathy sympathy and compassion in healthcare consultations: a systematic review of applied linguistic research.

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医療現場での共感や思いやりの伝え方に関する研究レビュー

医療現場において、患者さんとのコミュニケーションは治療の質を左右する重要な要素です。特に、患者さんの気持ちに寄り添い、理解を示す「共感」は、医療従事者にとって不可欠なスキルとされています。しかし、これまでのコミュニケーション研修では、共感を具体的にどのように伝えれば良いのか、その実践的な方法が十分に示されていませんでした。このような背景から、本研究レビューは、医療従事者がどのように共感を伝え、それがどのような効果をもたらすのかを明らかにするために実施されました。

🌟 医療現場における「共感」の重要性

医療現場では、患者さんが抱える身体的な苦痛だけでなく、精神的な不安やストレスにも寄り添うことが求められます。共感とは、相手の感情や経験を理解し、それを相手に伝えることです。これにより、患者さんは「自分のことを理解してもらえている」と感じ、医療従事者との信頼関係が深まります。信頼関係が築かれることで、患者さんは安心して自分の症状や悩みを打ち明けられるようになり、より適切な診断や治療へとつながる可能性が高まります。

しかし、共感の重要性は理解されていても、「具体的にどうすれば共感を伝えられるのか」「共感を伝えることで、どのような良いことがあるのか」といった点が不明確なままでした。このギャップを埋めることが、本研究レビューの大きな目的の一つです。

🔍 この研究レビューの目的と方法

この研究レビューは、医療現場における共感のコミュニケーションについて、これまでの研究を体系的にまとめ、その実態を明らかにすることを目的としています。

研究の背景

医療従事者にとって、患者さんへの共感的なコミュニケーションは非常に重要なスキルです。しかし、現在のコミュニケーション研修では、共感を具体的にどのように実践すれば良いのかが十分に示されておらず、研修の効果を妨げているという課題がありました。

研究の目的

本研究レビューは、医療従事者と患者さんの間で共感がどのように伝えられているのか、そしてその共感のコミュニケーションがどのような機能(役割)を果たしているのかを、応用言語学的な研究※1の知見を統合して明らかにすることを目的としました。

※1 応用言語学的な研究:言語がどのように使われ、どのような効果をもたらすかを、実際のコミュニケーションの文脈で分析する学問分野。

研究の方法

本研究レビューでは、医療従事者と患者さんの間で自然に行われた会話を録音し、分析した研究を対象としました。具体的には、以下の手順で研究を進めました。

  • 対象とする研究: 医療従事者と患者さんの間で自然に行われた会話を分析した研究。
  • 検索データベース: 5つの主要な学術データベース(PubMed, Embase, Scopus, Web of Science, PsycINFOなど)を体系的に検索しました。
  • 検索期間: 2024年8月までに英語で発表された研究を対象としました。
  • 分析方法: 選択された研究の結果と考察のセクションを、集約的なテーマ別統合分析※2という手法を用いて分析しました。これにより、複数の研究から共通するテーマやパターンを抽出し、統合的な知見を導き出しました。

※2 集約的なテーマ別統合分析:複数の質的研究から共通するテーマや概念を抽出し、それらを統合して新たな知見や理論を構築する分析手法。

💡 共感の伝え方、8つの具体例

この研究レビューでは、合計1112の研究を特定し、その中から厳選された43の研究を詳細に分析しました。その結果、医療現場で共感がどのように伝えられているかについて、8つの具体的なカテゴリーが明らかになりました。

共感の伝え方:具体的な8つのカテゴリー

医療従事者が患者さんに対して共感を伝える際に用いられる、具体的なコミュニケーションの方法をまとめました。

カテゴリー 具体的な伝え方 説明と例
1. 感情や経験を言葉にする 患者さんの感情や経験を明確に言葉で表現する。 「それは辛かったですね」「不安だったでしょう」と、患者さんの言葉や表情から読み取れる感情を代弁する。
2. 似た感情や経験を共有する 医療従事者自身の似た感情や経験を簡潔に共有する。 「私も以前、同じような経験をして、大変だと感じました」と、共感を示すために自身の経験を伝える。
3. 思いやりを持って耳を傾け、最小限の応答をする 患者さんの話に注意深く耳を傾け、相槌やうなずきなど、控えめな反応で理解を示す。 「ええ、ええ」「なるほど」といった相槌や、アイコンタクト、うなずきで、話を聞いていることを示す。
4. 患者の経験や感情を理解していると示す 患者さんの経験や感情を理解していることを直接的に表明する。 「おっしゃることはよく分かります」「そのお気持ち、察します」と、理解していることを明確に伝える。
5. 非言語的(マルチモーダル)に共感を示す 言葉だけでなく、表情、声のトーン、ジェスチャーなど、非言語的な要素で共感を表現する。 優しい表情、穏やかな声のトーン、患者さんの肩にそっと触れる(状況による)など。
6. 応答の叫び 患者さんの話に対して、驚きや共感を示す短い感嘆詞や声を発する。 「ああ、そうでしたか!」「ええ、本当に…」といった、感情のこもった短い応答。
7. 似た感情や経験を主張する 患者さんの現在の感情や経験に対して、自分も同じように感じていることを直接的に表明する。 「私も同じように感じます」「それは私もそう思います」と、より直接的に感情の共有を伝える。
8. その他 上記に分類されないが、共感を示す様々なコミュニケーション行動。 例えば、患者さんの沈黙を尊重し、待つ姿勢なども含まれる場合があります。

🤝 共感のコミュニケーションが果たす4つの役割

共感のコミュニケーションは、単に患者さんの気持ちに寄り添うだけでなく、医療現場で具体的な4つの重要な役割(機能)を果たしていることが明らかになりました。

共感のコミュニケーションがもたらす効果

共感的なコミュニケーションが、医療現場でどのような良い影響をもたらすかをまとめました。

機能グループ 具体的な役割 説明
1. アドバイスや問題解決を促進 患者さんが安心して話せる環境を作り、適切な情報提供や解決策の提案をスムーズにする。 患者さんが心を開くことで、医療従事者はより正確な情報を得られ、効果的なアドバイスや治療計画を立てやすくなります。
2. 患者の感情処理を支援 患者さんが自身の感情を表現し、それを受け止めてもらうことで、感情と向き合い、整理するのを助ける。 不安や恐怖といった感情を吐き出し、共感してもらうことで、患者さんは精神的な負担を軽減し、前向きな気持ちになりやすくなります。
3. 患者中心のケアを促進 患者さんの視点や価値観を尊重し、医療の意思決定プロセスに患者さんを積極的に巻き込む。 共感を通じて患者さんのニーズや希望を深く理解することで、患者さんの意向に沿った、よりパーソナルなケアを提供できます。
4. 病歴聴取を促進 患者さんが心を開き、自身の病歴や症状に関する正確で詳細な情報を提供しやすくなる。 信頼関係が築かれることで、患者さんは隠さずに症状や生活習慣などを話すようになり、診断の精度向上につながります。

🤔 研究結果から見えてくること:考察

この研究レビューの結果は、医療現場における共感のコミュニケーションが、単なる「良いこと」ではなく、具体的な効果をもたらす不可欠な要素であることを明確に示しています。

共感は医療現場に自然に溶け込む

レビューされた研究は、共感のコミュニケーションが医療相談の場面に「シームレスに組み込まれる」ことを示しています。これは、共感が特別な技術や時間のかかるプロセスではなく、日常的な会話の中で自然に実践できるものであることを意味します。例えば、患者さんの話に耳を傾け、適切な相槌を打つことや、感情を言葉にすることなど、ちょっとした工夫で共感を伝えることができるのです。

患者さんのエンゲージメントと感情表現の促進

共感は、患者さんの「エンゲージメント※3」(医療への積極的な関わり)を高め、感情表現を助けることが分かりました。患者さんが自分の感情を安心して表現できる環境は、精神的な健康にも良い影響を与えます。医療従事者が共感を示すことで、患者さんは「自分の感情は受け入れられる」と感じ、よりオープンに、そして正直に自分の状態を話せるようになります。

※3 エンゲージメント:ここでは、患者さんが自身の治療や健康管理に積極的に関わり、主体的に取り組む姿勢を指します。

問題解決と意見の相違への対応

さらに、共感は問題解決を助け、患者さんと医療従事者の意見が異なる状況でも役立つことが示されています。患者さんの感情や視点を理解しようと努めることで、たとえ意見が対立しても、より建設的な対話が可能になります。これにより、患者さんが治療方針に納得し、主体的に治療に参加する意欲を高めることにもつながります。

💖 私たちの実生活にも役立つ!共感コミュニケーションのアドバイス

この研究レビューで明らかになった共感の伝え方やその効果は、医療現場だけでなく、私たちの日常生活における人間関係にも大いに役立ちます。家族、友人、職場の同僚など、様々な場面で共感的なコミュニケーションを実践するためのヒントをいくつかご紹介します。

  • 相手の話に「耳を傾ける」ことから始める: 相手が話している間は、途中で遮らず、最後まで注意深く聞きましょう。相手の言葉だけでなく、声のトーンや表情、ジェスチャーなど、非言語的なサインにも意識を向けます。
  • 相手の感情を「言葉にする」: 相手が感じているであろう感情を、自分の言葉で表現してみましょう。「それは大変だったね」「不安だったでしょう」など、相手の感情を代弁することで、「理解してもらえている」という安心感を与えられます。
  • 自分の経験を「共有する」際は慎重に: 似た経験を共有することは共感を示す良い方法ですが、あくまで相手が主役であることを忘れずに。自分の話ばかりにならないよう、簡潔に伝え、すぐに相手の話に戻りましょう。
  • 「理解している」ことを明確に伝える: 「お気持ち、よく分かります」「なるほど、そういうことだったのですね」など、相手の言葉や状況を理解していることを、はっきりと伝えましょう。
  • 完璧でなくても「伝えようとする姿勢」が大切: 共感は一度で完璧にできるものではありません。大切なのは、相手の気持ちを理解しようと努め、それを伝えようとする姿勢です。たとえ言葉が拙くても、その気持ちは相手に伝わるはずです。

🚧 この研究の限界と今後の課題

本研究レビューは、医療現場における共感のコミュニケーションに関する貴重な知見を提供しましたが、いくつかの限界も存在します。

  • 英語論文に限定: 検索対象が英語で出版された研究に限定されているため、英語圏以外の文化圏における共感の伝え方や機能については、十分にカバーできていない可能性があります。文化的な背景によって、共感の表現方法や受け取られ方が異なることも考えられます。
  • 自然な会話に限定: 医療従事者と患者の「自然な会話」を分析した研究に限定しているため、実験室的な設定やシミュレーション環境での研究結果は含まれていません。これにより、特定の状況下での共感の側面が見過ごされている可能性もあります。
  • 出版バイアスの可能性: 肯定的な結果が出た研究が優先的に出版される傾向(出版バイアス)があるため、共感の効果が過大評価されている可能性も否定できません。

これらの限界を踏まえ、今後は多言語・多文化の研究を含めたり、より多様な研究デザインを取り入れたりすることで、共感のコミュニケーションに関する理解をさらに深めていく必要があるでしょう。

まとめ

この研究レビューは、医療現場における共感のコミュニケーションが、単なる「心遣い」ではなく、患者さんの積極的な関わりを促し、感情表現を助け、問題解決を支援し、さらには意見の相違がある状況でも建設的な対話を可能にする、不可欠な要素であることを明確に示しました。共感は、医療従事者と患者さんの間の信頼関係を深め、より質の高い医療を提供するために欠かせないスキルであり、日常の医療相談の中で自然に実践できるものです。この研究結果は、医療従事者だけでなく、私たち一人ひとりが日々のコミュニケーションにおいて共感を意識することの重要性を教えてくれます。

関連リンク集

  • 厚生労働省
  • 日本医師会
  • 国立がん研究センター
  • 国立精神・神経医療研究センター
  • 世界保健機関(WHO)

書誌情報

DOI 10.1186/s12913-026-14609-9
PMID 42120983
PubMed URL https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42120983/
発行年 2026
著者名 Ta Binh, Drewery Rachael, Calabria Virginia, Albury Charlotte
著者所属 Faculty of Medicine, Nursing and Health Science, Monash University, Melbourne, VIC3800, Australia. binh.ta2@monash.edu.; Nuffield Dept of Primary Care Health Sciences, University of Oxford, Oxfordshire, UK.; Department of Sport and Exercise Sciences, Durham University, Durham, DH1 3LA, UK.
雑誌名 BMC Health Serv Res

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DOI 10.1186/s44167-026-00100-7
PMID 41937218
PubMed URL https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41937218/
発行年 2026
著者名 Marent Pieter-Jan, Cardon Greet, Albouy Genevieve, van Uffelen Jannique
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DOI 10.3967/bes2025.086
PMID 41582547
PubMed URL https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41582547/
発行年 2026
著者名 Gao Ting Ting, Cao Wei, Yang Ti Ti, Xu Pei Pei, Xu Juan, Gan Qian, Wang Hong Liang, Pan Hui, Zhao Ying Ying, You Kai, Xing Qing Bin, Zhao Wen Hua, Yang Zhen Yu, Zhang Qian
雑誌名 Biomedical and environmental sciences : BES
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PMID 41482369
PubMed URL https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41482369/
発行年 2026
著者名 Pradab Sakda, Yupanqui Chutha Takahashi, Tipbunjong Chittipong, Hayeeawaema Fittree, Sengnon Narumon, Wungsintaweekul Juraithip, Khuituan Pissared
雑誌名 In vivo (Athens, Greece)
  • がん・腫瘍学
  • メンタルヘルス
  • 免疫療法
  • 医療AI
  • 呼吸器疾患
  • 幹細胞・再生医療
  • 循環器・心臓病
  • 感染症全般
  • 携帯電話関連(スマートフォン)
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