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2026.07.16 高齢医学

妊娠可能な女性の処方薬使用:妊娠中に注意が必要な薬の使用状況と妊娠状況、避妊薬使用との関連を報告

Use of prescription medications potentially harmful during pregnancy among women of reproductive age by pregnancy status and contraceptive use in the United States, 2009-2020.

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妊娠中の薬の使用は、多くの女性にとって大きな関心事です。お腹の赤ちゃんへの影響を考えると、どんな薬を飲むべきか、あるいは避けるべきか、不安に感じる方も少なくないでしょう。医療現場でも、妊婦さんへの薬の処方には細心の注意が払われています。

近年、妊娠中の薬の安全性に関する情報表示は改善されてきましたが、実際に妊娠可能な年齢の女性たちが、胎児に影響を及ぼす可能性のある処方薬をどの程度使用しているのか、その実態は十分に知られていませんでした。特に、妊娠している女性だけでなく、妊娠の可能性がある非妊娠女性における薬の使用状況も、意図しない妊娠のリスクを考慮すると非常に重要です。

今回ご紹介する研究は、米国における妊娠可能な年齢の女性たちの処方薬使用状況、特に妊娠中に注意が必要な薬の使用トレンドについて、妊娠状況や避妊薬の使用状況との関連を詳細に分析したものです。この研究結果は、女性の健康と安全な妊娠・出産のために、私たちが何を意識し、どのような対策が必要なのかを考える上で重要な示唆を与えてくれます。

💡研究の背景と目的

妊娠中に使用する薬が、お腹の赤ちゃんに与える影響は、薬の種類や使用時期、量によって様々です。中には、胎児の発育に悪影響を及ぼす可能性のある「催奇形性1」を持つ薬も存在します。近年、米国では妊娠中の薬の安全性に関する表示が変更され、より詳細な情報が提供されるようになりましたが、実際に妊娠可能な年齢の女性たちが、潜在的に有害な処方薬をどの程度使用しているのか、その実態は不明なままでした。

この研究の目的は、米国において、妊娠可能な年齢(20~44歳)の女性における、妊娠中に注意が必要な処方薬の使用トレンドを明らかにすることです。具体的には、妊娠しているかどうか、そして妊娠していない女性の場合は避妊薬を使用しているかどうかという状況別に、これらの薬の使用状況を調査しました。これにより、女性の健康管理と、より安全な妊娠・出産のための情報提供に役立つ知見を得ることを目指しました。

1催奇形性(さいきけいせい):胎児に奇形を引き起こす可能性のある性質。

🔬研究の方法

この研究では、米国国民健康栄養調査(NHANES)2の2009~2010年から2017~2020年までの5つのサイクルデータを用いて、「繰り返し横断分析3」という手法で分析が行われました。対象となったのは、20~44歳の女性で、過去30日間に処方薬を使用したと報告した人々です。

薬の分類方法

使用された処方薬は、医薬品情報データベースであるMicromedex4を用いて、胎児へのリスクに応じて以下の3つのカテゴリに分類されました。

  1. 妊娠中に禁忌5とされている薬
  2. 胎児への害が実証されている薬
  3. 胎児に害を及ぼす可能性のある薬

分析内容

研究者たちは、以下の項目について、加重有病率6を推定し、そのトレンドを調査しました。

  • いずれかの処方薬の使用状況
  • 潜在的に有害な薬を1種類以上使用している状況

これらの状況は、妊娠状況(妊娠中か非妊娠中か)と、非妊娠女性における避妊薬使用の有無別に分析されました。さらに、全体的なトレンドだけでなく、胎児リスクの重症度別、治療薬分類別、そして特定の薬剤別に詳細な分析が行われました。

2米国国民健康栄養調査(NHANES):米国疾病対策予防センター(CDC)が実施する、国民の健康と栄養状態を調査する大規模な調査。

3繰り返し横断分析:異なる時点で行われた複数の横断調査データを組み合わせて分析する手法。時間の経過に伴う変化を把握できる。

4Micromedex(マイクロメデックス):医療従事者向けの医薬品情報データベース。薬の副作用、相互作用、妊娠中の安全性などの情報を提供する。

5禁忌(きんき):特定の状況下でその治療法や薬剤を使用してはならないこと。

6加重有病率(かじゅうゆうびょうりつ):調査対象集団が母集団を代表するように、統計的に重み付けをして算出された、ある時点での疾病や状態の発生割合。

📈主な研究結果

この研究で明らかになった主要な結果を以下にまとめます。

妊娠可能な女性における処方薬使用状況のトレンド

項目 妊娠中の女性 (2009-2014) 妊娠中の女性 (2015-2020) 非妊娠中の女性 (避妊薬使用なし) (2009-2014) 非妊娠中の女性 (避妊薬使用なし) (2015-2020)
いずれかの処方薬使用割合 28.5% 37.1% (P<0.05)7 変化なし 変化なし
潜在的に有害な薬を1種類以上使用 14.6% 14.5% 27.4% 27.1%
潜在的に有害な薬を2種類以上使用 1.5% 5.0% (P<0.05) データなし データなし
抗うつ薬の使用割合 2.6% 7.1% (P=0.12) データなし データなし
セルトラリンの使用割合 (抗うつ薬) 0% 5.4% データなし データなし

7P<0.05:統計的に有意な差があることを示す。P値が小さいほど、その結果が偶然によるものではない可能性が高いとされる。

結果のポイント

  • 妊娠中の女性における処方薬使用の増加: 妊娠中の女性において、いずれかの処方薬を使用している割合は、2009-2014年の28.5%から2015-2020年には37.1%へと有意に増加しました。これは、妊娠中の女性が以前よりも多くの薬を使用する傾向にあることを示唆しています。
  • 潜在的に有害な薬の使用は依然として一般的: 潜在的に有害な薬を1種類以上使用している割合は、妊娠中の女性で約14.5%、避妊薬を使用していない非妊娠中の女性で約27%と、いずれのグループでも高い水準で推移しており、大きな変化は見られませんでした。
  • 妊娠中の女性における複数薬剤使用の増加: 特に注目すべきは、妊娠中の女性において、潜在的に有害な薬を2種類以上使用している割合が、1.5%から5.0%へと有意に増加した点です。これは、妊娠中に複数の薬を併用するケースが増えていることを示しています。
  • 抗うつ薬の使用増加: 抗うつ薬は、妊娠可能な年齢の女性全体で最も頻繁に使用される潜在的に有害な薬でした。妊娠中の女性における抗うつ薬の使用は、2.6%から7.1%へと増加傾向にあり(統計的有意差はP=0.12と境界域)、この増加は主にセルトラリンという特定の抗うつ薬の使用が0%から5.4%へと大幅に増えたことによるものでした。

🤔結果から見えてくること(考察)

この研究結果は、妊娠可能な年齢の女性、特に妊娠中の女性が、潜在的に胎児に影響を及ぼす可能性のある処方薬を日常的に使用している現状を浮き彫りにしました。

まず、妊娠中の女性で処方薬全体の利用が増加していることは、妊娠中の健康管理が多様化していることや、以前は治療を控えていた症状に対しても積極的に介入するようになった可能性を示唆しています。しかし、同時に潜在的に有害な薬の複数使用が増加している点は、慎重な対応が求められます。

抗うつ薬の使用増加、特にセルトラリンの増加は、妊娠中の女性のメンタルヘルスケアの重要性を強く示しています。妊娠中は、ホルモンバランスの変化や生活環境の変化、出産への不安などから、うつ病や不安障害を発症・悪化させるリスクが高まります。適切な治療は、母親の健康だけでなく、胎児の発育や出産後の育児にも良い影響を与えるため、治療の必要性は高いと言えます。しかし、その一方で、薬の選択や使用量、期間については、胎児への影響を考慮した上で、医師と患者が十分に話し合い、慎重に決定する必要があります。

また、避妊薬を使用していない非妊娠中の女性でも、潜在的に有害な薬の使用が約27%と高い水準にあることは、意図しない妊娠が起こった場合に、胎児が薬の影響を受けるリスクがあることを意味します。これは、妊娠を計画している女性だけでなく、妊娠の可能性のあるすべての女性に対して、処方薬の安全性に関する情報提供と、避妊の重要性について改めて啓発する必要があることを示唆しています。

今回の研究は米国のデータですが、日本においても同様の課題が存在する可能性は十分に考えられます。妊娠中の薬の安全性に関する継続的なモニタリングと、医療従事者と患者双方の意識向上が不可欠です。

🌱実生活へのアドバイス

この研究結果を踏まえ、妊娠可能な年齢の女性、そしてそのパートナーや医療従事者の皆さんに、実生活で役立つアドバイスをいくつかご紹介します。

妊娠可能な女性の皆さんへ

  • 妊娠を希望する、または妊娠の可能性がある場合は、必ず医師や薬剤師に相談しましょう。

    現在服用している薬がある場合、妊娠が分かってからでは遅いこともあります。妊娠を計画している段階で、服用中の薬が胎児に与える影響について確認し、必要であればより安全な代替薬への変更や、治療計画の見直しを相談しましょう。

  • 自己判断で薬の服用を中止したり、量を変更したりしないでください。

    特に抗うつ薬など、自己判断で急に中止すると、症状が悪化したり、離脱症状8が出たりする可能性があります。必ず医師の指示に従いましょう。

  • 市販薬やサプリメント、漢方薬なども、医師や薬剤師に伝えましょう。

    処方薬でなくても、妊娠中に使用を避けるべきものや、処方薬との相互作用9があるものもあります。自己判断での使用は避け、必ず専門家に相談してください。

  • メンタルヘルスに不調を感じたら、我慢せずに専門家を受診しましょう。

    妊娠中や産後は、精神的に不安定になりやすい時期です。うつ病などの精神疾患は、放置すると母子の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。適切な治療を受けることで、より健やかな妊娠期間と育児を送ることができます。

  • 避妊についてもしっかり考えましょう。

    妊娠を希望しない場合は、確実な避妊方法について医師に相談し、実践することが重要です。これにより、意図しない妊娠と、その際に服用中の薬が胎児に与えるリスクを避けることができます。

医療従事者の皆さんへ

  • 妊娠可能な年齢の女性には、処方時に必ず妊娠の可能性や避妊の状況を確認しましょう。

    問診の際に、妊娠希望の有無、月経周期、避妊方法などについて丁寧に確認し、妊娠の可能性がある場合は、胎児への影響が少ない薬を優先的に検討しましょう。

  • 薬の選択時には、最新の胎児リスク情報を参照し、より安全な代替薬を検討しましょう。

    特に、潜在的に有害な薬を処方する際は、その必要性を十分に評価し、患者さんとリスクとベネフィット10について詳しく話し合いましょう。

  • 患者さんへの十分な情報提供とカウンセリングを行いましょう。

    薬の安全性に関する情報は複雑なため、患者さんが理解しやすい言葉で、具体的なリスクと対策、服用方法などを丁寧に説明することが重要です。不安や疑問に寄り添い、信頼関係を築きましょう。

  • 多職種連携を強化しましょう。

    産婦人科医、精神科医、薬剤師、助産師などが連携し、妊娠可能な女性の薬物治療について包括的なサポート体制を構築することが望ましいです。

8離脱症状(りだつしょうじょう):薬の服用を急に中止したり減量したりした際に現れる、不快な身体的・精神的症状。

9相互作用(そうごさよう):複数の薬を併用した際に、それぞれの薬の効果が増強されたり減弱されたり、予期せぬ副作用が現れたりすること。

10リスクとベネフィット:治療や介入によって得られる利益(ベネフィット)と、それに伴う危険性や不利益(リスク)を比較検討すること。

⚠️研究の限界と今後の課題

この研究は、妊娠可能な女性の処方薬使用状況に関する貴重な情報を提供しましたが、いくつかの限界も存在します。

  • 横断研究であること: この研究は、ある時点での状況を切り取った「横断研究」であり、薬の使用と妊娠の結果との間に直接的な因果関係11を証明することはできません。例えば、抗うつ薬の使用が増加したからといって、それが直接的に特定の妊娠合併症を引き起こしたとは断定できません。
  • 自己申告データであること: 薬の使用状況は、対象者の自己申告に基づいています。そのため、記憶の偏りや、社会的に望ましいと判断される回答をしてしまう「報告バイアス」の可能性が完全に排除できません。
  • 米国のデータであること: この研究は米国の国民健康栄養調査のデータを使用しているため、その結果が日本の状況にそのまま当てはまるとは限りません。各国の医療制度や文化、薬の使用習慣の違いを考慮する必要があります。
  • 詳細な情報不足: 薬の使用量や使用期間、妊娠中のどの時期に服用されたかといった詳細な情報が、この抄録からは読み取れません。これらの情報は、胎児への影響を評価する上で非常に重要です。

今後の課題としては、より長期的な追跡調査(コホート研究12など)を実施し、薬の使用と妊娠の転帰(結果)との間の因果関係をより明確にすること、そして、薬の使用量や期間、妊娠中の服用時期といった詳細なデータを収集・分析することが挙げられます。また、日本を含む他の国々での同様の研究も必要とされます。

11因果関係(いんがかんけい):ある事象が原因となって、別の事象が結果として生じる関係。

12コホート研究:特定の集団(コホート)を一定期間追跡し、要因と結果の関連を調べる研究デザイン。因果関係の解明に役立つ。

✨まとめ

今回の研究は、妊娠可能な年齢の女性、特に妊娠中の女性において、潜在的に胎児に影響を及ぼす可能性のある処方薬が一般的に使用されており、その中でも抗うつ薬の使用が増加している現状を明らかにしました。また、妊娠中の女性では、複数の潜在的に有害な薬を併用するケースが増えていることも示されています。

これらの結果は、女性のメンタルヘルスケアの重要性と、妊娠中の薬の安全性に関する継続的なモニタリング、そして医療従事者と患者双方の意識向上が不可欠であることを強く示唆しています。妊娠を希望する、または妊娠の可能性がある女性は、服用中の薬について必ず医師や薬剤師に相談し、適切な情報に基づいて安全な選択をすることが重要です。また、医療従事者は、妊娠可能な女性への処方時には、妊娠の可能性や避妊の状況を十分に確認し、胎児への影響を考慮した上で、患者さんと共に最善の治療計画を立てる必要があります。

この研究が、より安全で健やかな妊娠・出産を支えるための議論と行動につながることを願っています。

🔗関連リンク集

  • 厚生労働省
  • 国立医薬品食品衛生研究所
  • 日本産科婦人科学会
  • 国立成育医療研究センター
  • 米国食品医薬品局(FDA)
  • 米国疾病対策予防センター(CDC)

書誌情報

DOI 10.1186/s12978-026-02409-7
PMID 42458467
PubMed URL https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42458467/
発行年 2026
著者名 Qato Dima M, Ozenberger Katharine, Li Qingrong, Steinberg Irving
著者所属 Program on Medicines and Public Health, Alfred E Mann School of Pharmacy and Pharmaceutical Sciences, University of Southern California, Los Angeles, CA, USA. qato@usc.edu.; Program on Medicines and Public Health, Alfred E Mann School of Pharmacy and Pharmaceutical Sciences, University of Southern California, Los Angeles, CA, USA.; Titus Family Department of Clinical Pharmacy, Alfred E Mann School of Pharmacy and Pharmaceutical Sciences, University of Southern California, Los Angeles, CA, USA.
雑誌名 Reprod Health

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DOI 10.1186/s13584-025-00718-z
PMID 40963136
PubMed URL https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40963136/
発行年 2025
著者名 Abu Saman Fadi, Lerner-Geva Liat, Mor Zohar
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DOI 10.1002/alz.71500
PMID 42174393
PubMed URL https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42174393/
発行年 2026
著者名 Gutierrez Sirena, Kunicki Zachary J, Strangmann Iris, Gonzalez Alexa S, Ying Gelan, Mani Sneha Sarah, Torres Jacqueline M, Weuve Jennifer, Terracciano Antonio, Vonk Jet M J, Briceño Emily M, Rentería Miguel Arce
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PMID 41761380
PubMed URL https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/41761380/
発行年 2026
著者名 Heiting Chloe, Wu Yiyuan, Goodman Susan M, Sculco Peter, Wang Fei, Ibrahim Said, Cram Peter, Caruana Rich, Mehta Bella
雑誌名 Arthroplasty
  • がん・腫瘍学
  • メンタルヘルス
  • 免疫療法
  • 医療AI
  • 呼吸器疾患
  • 幹細胞・再生医療
  • 循環器・心臓病
  • 感染症全般
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